
導入:はじめに
『ドラゴンクエストI&II リメイク』――その名を聞いて、あなたは“懐かしさ”を思い浮かべるだろうか?
それとも、“新しいドラクエ”への期待だろうか?
僕が今回のリメイクを実際にプレイしてみて感じたのは、そのどちらでもなかった。
これは、原点を再構築した“もうひとつの新作“だ。
本作は、かつての名作『ドラゴンクエストI』『II』を単にHD-2D化しただけではない。
グラフィック、テンポ、そして物語の語り方まで――すべてが現代的なRPG体験へと練り直されている。
特に最初のHD-2Dリメイクだった『ドラクエIII HD-2Dリメイク』で感じた“忠実さゆえの物足りなさ”を補うように、今回はシリーズの進化と再生が見事に両立されている印象だ。
この記事では、50時間以上プレイした僕の立場から、
「リメイクとしてどこが変わり、何が残ったのか」
「ファン目線で見た満足度と不満点」
――そのすべてを率直にレビューしていく。
『ドラゴンクエストI&II リメイク』をプレイすべきか迷っている人にとって、本記事が“勇者の決断”のヒントになれば幸いだ。
劇的に肉付けされたストーリー
「これは、ただのリメイクじゃない…!」──そう確信したのは、最初の数分でだった。
本作『ドラゴンクエストI&II リメイク』が見せる最大の驚きは、物語がここまで息づくものだったのかという発見だ。
原作の『ドラクエI&II』といえば、悪が世界を支配し、勇者が立ち上がるという王道の構図。
だが今回は違う。キャラクターたちが生きて、迷って、笑う。
まるで、ドットの世界に魂が宿ったかのような「再構築されたストーリー」なのだ。
長年ドラクエを追い続けてきた僕でさえ、プレイ中は何度も“胸の奥が熱くなる瞬間”を覚えた。
⚔️ I:新キャラクターと豊かなドラマの化学反応
新キャラクターの登場によって、物語がまるで群像劇のように膨らんでいく。
城の兵士、狩人、悪徳商人、妖精族、ドワーフ──どの人物も、世界の一部として確かに息づいている。
彼らが放つ一言一言が、物語の奥行きを広げてくれるのだ。
特に印象に残ったのは、ローラ姫の描かれ方。
原作では語られなかった“さらわれる瞬間”や“心の揺らぎ”が、美しいイベントシーンとして追加されている。
プレイヤーの想像の中にあった「ローラ姫」が、ついに“目の前に現れた”瞬間のようで──あの時、僕は思わずコントローラーを握る手が止まった。
これまで数多くリメイクされてきた『I』の中でも、ここまでドラマティックに描かれたものはなかった。
🛡 II:仲間と笑い、語り合う旅へ
『II』では、パーティー制の真価がようやく解き放たれた。
ローレシアの王子、サマルトリアの王子、ムーンブルクの王女──この3人がただの仲間ではなく、“絆を持つ旅人”として描かれるようになったのだ。
道中では軽妙な掛け合いが絶えない。
「ムーンブルクの王女をどう呼ぼう?」とサマルトリアの王子が悩んだり、ボケとツッコミのような掛け合いが生まれたりするたびに、プレイヤーの頬が緩む。
『テイルズオブ』シリーズのような賑やかさと、『ドラクエ』らしい温かさが見事に同居している。
さらに、新キャラクター・サマルトリアの王女が同行するという驚きの展開も。
オリジナルでは、サマルトリア王子の行方のヒントを出すだけの登場だった彼女が、まさかの大出世。
新たな4人目の仲間として彼女の明るい性格と行動力がパーティーに彩りを加え、イベントシーンの一つひとつが“冒険の記憶”として胸に残る。
🌌 ロト三部作の繋がりが“物語”として蘇る
そして、本作が真に見せつけるのは、ロト三部作の神話的繋がりの再定義だ。
『III』→『I』→『II』へと連なる壮大な時間軸が、今作でようやく一本の線として繋がる。
『I』に紋章の要素が登場し、それが『II』へと受け継がれる――
この小さな仕掛けひとつで、プレイヤーは思わず時系列を“感じる”ことになる。
また、『I』の中には『III』の伏線が随所に散りばめられており、「この王様…もしかして…?」と気づいた瞬間、背筋にゾクッとした。
ファンであればあるほど、この再構成された物語の巧みさに唸るはずだ。
🎮 “想像の余白”が“感情の物語”へと変わった
リメイクとは、思い出を壊すものではなく、思い出の続きを描くものだと僕は考えている。
『ドラゴンクエストI&II リメイク』は、まさにそれを体現している。
原作で想像していた“物語の余白”が、今作では生きたキャラクターとイベントとして描かれ、
プレイヤーの心をもう一度、あの頃の冒険へと連れ戻してくれる。
画面の前で何度も思った。
──これは、ドラクエを愛してきたすべての人への「ご褒美」だ。
新エリアと探索要素の増加による“冒険の再定義”
『ドラゴンクエストI&II リメイク』のプレイを通して、まず感じたのは“世界そのものの広がり”だ。
単なるマップの拡張ではない。そこには、「探索する理由」が丁寧に織り込まれている。
長年このシリーズを追いかけてきた身として断言できる──このリメイクは、“冒険の密度”が明らかに変わった。
⚔️ I:キーアイテム入手が“物語”へと昇華された
『I』の新エリアとして、ドワーフの洞窟や妖精の隠れ里が追加されたのは象徴的だ。
それぞれの場所には、背景設定が緻密に組み込まれ、単なる寄り道ではなく“世界の必然”としての存在感**を放っている。
とりわけ感心したのが、“魔法の鍵”や“ロトの印”といったキーアイテムの扱いだ。
原作では、ただ店で買ったり、宝箱を開けて手に入れるだけだった。
しかし今作では、それらを手にするまでの過程に新たなドラマが挟まれており、
探索そのものが物語体験として再設計されている。
「モノを手に入れる」という行為が「意味を掴む」行為に変わったのだ。
さらに、マップ構成も現代的にチューニングされている。
集落間の長距離移動に宿屋や教会が追加され、テンポが自然に整えられている点も見逃せない。
このリメイクは、単にプレイしやすくしたのではない。“冒険を止めない”ためのデザインが隅々に行き届いている。
🌊 II:海底エリアの追加が示す、“冒険の深み”という新次元
一方『II』では、想像を超える規模の海底エリアが登場する。
船で航海できる海の下へ潜り、そこでまた新たな世界が広がる──初めて潜った瞬間、思わず息を呑んだ。
この海底には、集落や遺跡、そして“ドラクエ的神話”を感じさせる新ダンジョンが待ち構えている。
単なるエリア追加にとどまらず、「冒険の縦軸」を生み出したと言っていい。
上空・地上・海底という三層構造の探索は、RPGにおける“空間体験”の新たな提案だ。
しかも、海底の隅々にはサブイベントや隠し宝が散りばめられ、探索だけで数時間が経過してしまう。
かつて『II』を遊び尽くした世代ほど、この変化に心が震えるはずだ。
懐かしさの上に、新たな発見が重なる。
──まさに、「記憶の続編」としてのリメイクがここに完成している。
“懐かしさ”の上に“未知”があるという喜び
新しいエリアを踏みしめるたびに思う。
ドラクエは、僕たちが「もう知っている」と思っていた世界を、もう一度未知に変えてくれる。
その体験がある限り、僕はこれからも何度でも“最初の一歩”を踏み出すだろう。
遊びやすさの大幅向上と細やかな設定
今回のリメイクでまず驚かされたのが、「ここまで現代的に遊びやすくなっているのか」という点だ。
原作を何周も遊んできた自分だからこそ、その変化が痛いほど分かる。
🔦 ダンジョン探索の改善が実感できる
『I』のダンジョンは、原作では真っ暗闇の中を“たいまつ”頼りで進む必要があった。
あの独特の緊張感も嫌いじゃなかったが、実際は結構ストレスでもあった。
今回はたいまつを自動で使用してくれるため、立ち止まる時間がゼロ。
「ここ、昔は何度も迷った場所だよな…」と懐かしさを感じながらも、ストレスフリーで探索できる快適さに思わずニヤリとした。
鍵も消費制ではなく、一度入手すれば使い放題。
原作を遊んでいた世代からすると「えっ、そんなに便利でいいの?」と一瞬戸惑うが、プレイを続けるうちに、“テンポの良さ”こそが今作の設計思想なのだと実感できた。
💾 セーブ関連の快適化で「ふっかつのじゅもん」卒業
オートセーブの導入は、正直めちゃくちゃありがたい。
昔は“ふっかつのじゅもん”を紙にメモして間違えて泣いた記憶があるが、今作ではその心配が一切ない。(オリジナルのドラクエIとIIをやった人は例外無くこの転記ミスを経験していると信じたい)
ほんの数歩進むだけでも自動セーブされるので、「もう一戦だけ…」と夜更かししても安心して電源を落とせる。
リメイクに求めていた“現代の安心感”がようやくここに来た。
⚙ システム全般の改善が行き届いている
全滅後の即時復帰、目的地のマーカー表示、敵の弱点表示など、どれも「いまのRPGとして当たり前に欲しかった」要素がしっかり押さえられている。
『III』リメイクから継承された設計も多く、「面倒くささで中断すること」がほぼなくなった印象だ。
長年RPGを遊んできた身として、ここまで遊びやすくなると“快適さも演出の一部”なんだと感じさせられる。
🧭 便利ボタンとカスタム操作でテンポUP
十字ボタンに呪文・特技・道具を登録できるショートカット機能は、実際に使ってみると想像以上に快適だった。
「トヘロス」をワンボタンで発動してエンカウント率を下げたり、序盤に「薬草」を設定して即回復したり──ちょっとしたことだが、こういう部分の積み重ねがプレイ体験を変える。
慣れてくると「もうこの操作なしでは戻れない」と思うほどだ。
オリジナルをやっていても、今のゲームに昔の不便さを求めてはいない。
こういった細かいUI周りの改善は個人的には大歓迎だ。
🎮 難易度と探索設定の細分化が秀逸
『III』リメイクにあった3段階難易度に加え、今作では「レベルアップ時にHP/MP回復」「バトルスピード変更」「死亡無効設定」など、細かなカスタマイズが可能。
僕は最初ノーマル設定で始めたものの、途中から「いばらの道だぜ」に切り替えたことで、程よい緊張感が戻ってきた。
プレイヤーのプレイスタイルに合わせて難易度を調整できる柔軟さが、本当にありがたい。
また、宝箱や隠しエリアの位置をマップ上で確認できる探索サポート機能も追加されており、「昔は見落としていた場所を、今度はちゃんと見つけられる」という満足感がある。
新しい体験なのに、ちゃんと“思い出の地を歩いている感覚”が残っているのが素晴らしい。
ゲームバランス:尖りすぎた『I』、完成度の高い『II』
「リメイクで難易度が下がったのでは?」という懸念を抱いていたが、実際にプレイしてみるとその心配は不要だった。
通常難易度でも油断すれば全滅するほどの緊張感があり、特にボス戦ではしっかりとした歯ごたえを感じる。
倒した時の達成感は、原作に劣らないどころか、それ以上だった。
ただし、『I』のゲームバランスについては全体的に“尖りすぎている”印象を受けたところがあるのも事実。
⚔ 『I』:戦略性の向上と、ボス戦の極端さ
『I』は主人公ひとり旅という原作の特徴をそのまま残しているが、戦闘面では大きく様変わりしている。
まず、呪文と特技の種類が大幅に増えたことで、戦略性が格段に上がった。
攻撃・補助・回復の判断が重要になり、特にドラゴン戦などでは「次の一手」で勝敗が決まる場面も多い。
この駆け引きが生まれたこと自体は非常に良い進化だと感じた。
一方で、ボス戦の難易度調整には課題があるとも感じた。
中盤の悪魔の騎士戦では、攻撃力が突出して高く、通常装備では100以上のダメージを受ける。
さらに守備力を下げる効果も持っており、こちらの防御行動がほとんど意味をなさない場面もあった。
新要素である特技「受け流し」を使えばダメージを軽減できるが、確率が安定せず、運の要素が強い。
そして終盤の追加ボス・エクソダスは、その極端さの象徴とも言える。
自己回復・呪文封じ・麻痺攻撃・複数回行動と、プレイヤーにとって厄介な行動をほぼすべて兼ね備えている。
一人旅でこれを相手にするのは非常に厳しく、せっかく増えた呪文や特技の活用機会を敵側が封じてしまう調整には少し疑問が残った。
結果として、『I』の戦闘は“考える楽しさ”と“理不尽さ”が紙一重で並んでいる印象だ。
攻略自体は十分可能だが、万人が楽しめるバランスとは言い難い。
難易度をもう一段階緩和するオプションがあれば、より幅広い層が楽しめたのではないかと感じた。
🛡 『II』:仲間による安定感とシリーズらしい成長バランス
対照的に、『II』のバランスは非常に良くまとまっている。
終盤になると敵の攻撃が苛烈になるものの、仲間の成長とスキル構成がそれをきちんと補ってくれるため、“厳しいけれど理不尽ではない”絶妙な難易度に仕上がっている。
サマルトリアの王子は攻撃と補助の両面で活躍し、万能型として機能。
ムーンブルクの王女は強力な攻撃呪文で戦闘の軸を担う。
さらに新登場のサマルトリアの王女が後半に加わることで、戦闘のテンポがより安定し、各キャラの個性が戦術の幅を広げてくれる。
仲間との連携がしっかり感じられるため、戦闘が単なる作業にならず、常に適度な緊張感を保てる点が好印象だった。
🎮 総評:『I』は実験的、『II』は成熟の域へ
総じて、『I』は実験的で挑戦的な調整が目立ち、『II』は王道RPGとしての完成度を高めた内容になっている。
リメイクチームが「原作を再現するだけでなく、現代的な戦闘体験を作り直そう」と意識しているのが伝わってくる。
実際にプレイしてみて思うのは、この作品が“懐かしさ”を残しながらも、シリーズの新たな挑戦を形にしているということだ。
ときに尖りすぎ、ときに見事にハマる――そんな不均一さも含めて、今作の『ドラクエI&II リメイク』は、しっかりと“新しい冒険”として成立している。
賛否両論?新たなエンディングへの道のり
今回のリメイクには、通常エンディングとは別に新エンディングが用意されている。
「ロトの伝説は誰も知らない結末へ」――そんな挑発的なコピーを掲げていたこともあり、プレイヤーとして自然と期待は高まった。
だが実際にそのルートを体験してみると、期待と現実の間に少しギャップを感じたのも事実だ。
新エンディングへ至るまでの流れは完全に今作オリジナル。
設定や演出の意図は理解できるが、隠しダンジョンの構成が単調で、「なぜここでこの手順を踏ませるのか」と首をかしげた場面が何度かあった。
内容を具体的に伏せるが、単に敵が強いとか謎解きが難しいというレベルではなく、“手応え”と“作業感”のバランスがやや崩れている印象を受けた。
特に問題なのは、その部分を公式が大々的にセールスポイントとして打ち出していることだ。
「ロトの伝説の真実を見届けよう」と銘打つ以上、プレイヤーとしてはその過程にも特別な体験を期待する。
しかし、実際には「作業的な長さ」が先に立ち、物語の重みを感じる余裕が薄れてしまう。
前作『III』リメイクの隠しダンジョンも確かに厳しかったが、今回は別の意味で辛さを感じた。
“挑戦”というより、“根気を試される構成”に近い。
ロンダルキアの洞窟:再現度と現代的な再構築のせめぎ合い
一方、『II』に登場するロンダルキアの洞窟は、原作の再現度が非常に高い。
入るまでのイベントも多く、内部構造も複雑。
敵の強さも相まって、今なお“シリーズ屈指の難所”と呼ぶにふさわしい難易度だ。
ただ、単に昔の理不尽さをそのまま再現したわけではない。
地面にヒビが入って落とし穴の位置が分かりやすくなるなど、「理不尽さを減らしながらも緊張感を残す」調整が行われている。
実際に攻略してみると、迷うたびに「そうそう、ここで何度も全滅したんだよな…」と懐かしい記憶が蘇る。
そしてその直後に、現代的な導線の工夫やビジュアルの分かりやすさに気づく。
“懐かしさ”と“進化”が入り混じった不思議な感覚だった。
呪文を覚える「巻物」の重要性
今回のリメイクで新たに導入された「巻物による呪文習得」は、プレイのテンポと探索の意味づけを大きく変えた要素だ。
これは一見小さな追加のようでいて、実際にプレイしてみるとゲーム体験そのものを左右するほどの影響力を持っている。
特に『I』のように主人公が単独で旅を続ける作品では、一枚の巻物を見つけるかどうかで難易度が劇的に変わる。
僕がそれを痛感したのは、「ベホイミの巻物」を入手した瞬間だった。
この呪文を覚える前と後では、戦闘の安定感がまったく違う。
回復手段が限られる中盤において、ベホイミの有無がそのまま「生存率」と言ってもいいほどの差になる。
ただ、この巻物がまた絶妙に見つけにくい。
探索が丁寧でないとまずスルーしてしまう場所に隠されており、取り逃したプレイヤーは一気に苦戦を強いられる。
僕自身、一度見落として進めた際には、ボス戦での回復リソースが足りず痛い目を見た。
そのあと引き返して入手した時の安堵感は、まさに「命綱を拾った」ような感覚だった。
また、巻物は宝箱だけでなく、本棚や机の上などにも配置されている。
この“発見の分散”が、探索に新しい意味を持たせているのもポイントだ。
どの部屋も「何かあるかもしれない」という緊張感を生み出し、RPG本来の“調べる楽しさ”を再び思い出させてくれる。
探索の見落としが心配な人は、ミニマップ上に宝箱を表示できる設定をオンにしておくと安心だ。
ただ、個人的にはあえてオフにして、自分の足と記憶で探し出すプレイスタイルをおすすめしたい。
“巻物を発見した瞬間の達成感”は、数字や演出を超えたRPGの原点そのものだからだ。
総評:新生ドラクエの誕生と、その先にある課題
『ドラゴンクエストI&II リメイク』は、単なる復刻ではなく──“原点を現代に再構築した作品”だと断言できる。
見た目は懐かしくとも、その中身は完全に新しい。
シリーズを長年追ってきた身として、ここまで構造的に手が入ったリメイクは驚きだった。
特筆すべきは、イベントシーンの存在感だ。
原作の『I&II』が「探索と戦闘が主軸」の作品だったのに対し、今作ではドラマパートが大幅に強化され、ボイス付きの演出もふんだんに盛り込まれている。
単なる会話ではなく、キャラクター同士の心理がぶつかり合う瞬間が描かれており、物語体験という面では確実に“現代RPGの文法”を取り入れている。
一方で、そのボリュームゆえにテンポが緩む場面もある。
特に『II』はテキスト量が原作の10倍近くに増え、時にイベントの密度に飲み込まれてしまう印象を受けた。
“静”と“動”のリズムがもう少し整理されていれば、より自然に物語へ没入できただろう。
とはいえ、根底にあるのはあくまで「勇者が悪を討ち、世界を救う」という、ドラクエが積み重ねてきた王道の美学だ。
ひねりやメタ構造で勝負する近年のRPGに慣れていると、やや説明的に感じるかもしれないが、その“まっすぐさ”こそドラクエがドラクエである証でもある。
もし主人公が喋らないことに違和感を覚える場合は、設定でボイスをオフにすれば、当時の“静かな勇者像”をそのまま味わえるだろう。
新エンディングが照らす「ロト三部作」への敬意
(※ここから先はネタバレなしで構成しています)
新たに追加された『II』のエンディングを見届けたとき、「なぜ公式が“III → I → II”の順番でのプレイを推奨したのか」が腑に落ちた。
このリメイクは、“IIIを知っているプレイヤーの心”を前提に作られている。
その構成の妙に、長年シリーズを見続けてきた者として感動せずにはいられなかった。
『III』リメイクでは“原点”を描いた。
そして今回の『I&II』では、その原点が“伝説”として昇華される。
この流れが一本の物語として繋がった瞬間、僕は思わずコントローラーを握る手を止めてしまった。
「ロトの物語を、こう締めくくるのか」と。
もちろん、展開の好みは人それぞれだ。
だが、ロト三部作に心を寄せてきた世代にとって、
今作の新エンディングは“シリーズ史上、もっとも温度のあるファンサービス”だと言っていい。
新設定が追加されたことで考察の余地も広がり、エンディング後の世界について語り合いたくなる──そんな余韻が確かに残る。
結論:リメイクの“完成”ではなく、“再出発”
『ドラゴンクエストI&II リメイク』は、懐かしさの再現ではなく、“ドラクエという神話を現代の文脈で再構築した試み”だ。
改善すべき点は確かにある。
だが、原作を愛するファンも、シリーズをこれから知る新規層も、“同じ物語を新しい形で共有できる”という点で、本作の意義は大きい。
長くドラクエを見てきた者として、この作品をひとことで表すなら──それは「新生ドラクエの誕生」であり、同時に「次なる挑戦のための第一歩」でもある。
まとめ:土台から生まれ変わった、“新生ドラクエ”の再定義
ひと言で表すなら、本作は「土台から刷新された“新しいドラクエ”」だ。
見た目や雰囲気こそ懐かしいが、設計思想そのものが現代RPGの基準に合わせて再構築されている。
特に『I』のストーリー面での変化は圧倒的で、「ここまで原作を掘り下げてくるか」と思わず唸った。
ゲームバランスについては、依然として尖った部分が残っており、とくに『I』ではプレイヤーを試す調整が散見される。
しかし、それも“ドラクエらしい緊張感”として受け止めることができた。
難易度設定を柔軟に調整できる点も含め、今回は自分のペースで遊べる設計に進化している。
そして何より印象的だったのは、プレイ中に何度も「これはもうリメイクではなく、新作だ」と感じたことだ。
新エリア、新ダンジョン、新イベント──どれも単なる追加要素に留まらず、“冒険する理由”として機能している。
長年シリーズを追ってきた者としても、あの懐かしい世界を“再び未知として探索できる”ことが、何より嬉しかった。
リメイクの意義にはさまざまな考え方がある。
だが、『ドラゴンクエストI&II』のように何度もリメイクされてきたタイトルにおいて、ここまで大胆な再構築に踏み切った開発陣の判断を、僕は素直に評価したい。
単なる焼き直しではなく、“作品そのものを再定義する試み”として成立しているからだ。
新作を待ち続けているドラクエファンにとって、この『I&II リメイク』は“繋ぎ”ではなく、“希望”の一本になると思う。
新しい要素を楽しみながら、懐かしさの中に潜む発見を味わえる。
それこそ、リメイクが果たすべき理想の形だ。
そして今後予定されている『ドラゴンクエストVII』のリメイクも、どうやら同じ方向性──“攻めた再構築”──を志しているようだ。
どこまでシリーズの骨格を変え、どこを守るのか。
今回の『I&II』を体験した今、次の挑戦が心から楽しみでならない。
